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【星野教授執筆/前編】おざなりな「データ分析」で施策や効果を語る落とし穴

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慶應義塾大学経済学部教授 星野崇宏

2004年東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了(学術・経済学)。その後名古屋大学大学院、シカゴ大学、ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院、東京大学等を経て2015年より現職。3年連続で慶應義塾大学経済学部のゼミで志願者が最も多いゼミを指導する。第13回日本学術振興会賞、2017年に日本統計学会研究業績賞を受賞。統計学・行動経済学・マーケティング分野の専門家で、国内トップレベルのデータサイエンティストとしても知られる。他にも、日本行動経済学会理事、日本行動計量学会理事、日本マーケティング・サイエンス学会理事等も務める。

こんにちは。CRM/ポイントサービスコンサルティングのエムズコミュニケイトが運営するポイントマーケティングラボ編集部です。

ポイントマーケティングラボでは、企業・事業会社のマーケティング・販売促進の担当者・事業責任者の方々に向けて、ポイント制度の導入や分析、CRMのノウハウについて、プロの視点から惜しみなく情報を発信して参ります。是非ご参考にしていただければ幸いです。

今回は弊社顧問である慶應義塾大学星野崇宏教授に執筆頂いた記事をお届け致します。是非ご一読ください。

まず、星野教授を紹介させて頂きます。星野教授は2004年に東京大学大学院を博士課程で修了後、現在は慶應義塾大学経済学部教授として3年連続で慶應義塾大学経済学部内のゼミで最も志願者の多いゼミを指導されています。

また、星野教授は様々な学会や委員会で理事などを務めており、統計学・行動経済学・マーケティング分野の専門家であり、国内トップレベルのデータサイエンティストとしても知られています。

2018年4月より弊社顧問として招聘し、国内初となるポイントサービスに関する産学共同研究をスタートしました。弊社と星野研究室にて、値引きや割引と異なるポイントサービスの効果、投資対効果について実証的・学術的に見える化し、その最大化の手法を確立することを目的とする「ポイントサービス効果最大化研究会」を発足、実施しています。

弊社代表の岡田は星野教授とポイントに関する研究を行っており、その内容は日経産業新聞(日本経済新聞社発行)にも紹介されております。ぜひ以下のバナーからご覧ください。

実際の新聞記事はこちらから(閲覧期限は2019年9月6日までとなります)

また、弊社代表の岡田が理事を務める日本リテンションマーケティング協会や弊社創立15周年ポイントサービス企業交流会にて、下記講演会も実施しました。

  • 「ビックデータと行動経済学から探る顧客離脱と維持」
  • 「ビックデータと行動経済学から探る顧客関係管理ーポイントサービスで顧客の行動を変えるには」

前置きが少し長くなりましたが、星野崇宏教授による記事を前編と後編に分けてお届けします。まずは前編をお届けします。

ポイントサービスは大きな投資

私はビッグデータの分析方法の研究である統計学や機械学習、さらに人々の非合理的な経済行動を調べる行動経済学の研究を行っております。

ポイントサービスの研究を学術的に行っているのは国内では私以外ではごく数人のようですが、ポイントサービスは実は海外のマーケティングやマネージメント、行動経済学では非常に盛んに研究されている重要なテーマです。なぜでしょうか?

まずポイントサービスは経営的に重要です。なにしろ小売業などでしたら営業利益率が2~3%程度の企業が多いですが、一方ポイントサービスの還元率は0.5%や1%ですから、利益率を考えると非常に大きな投資です。欧米のマネージメントのように高いROI(投資収益率)を追求する人たち見れば、競合企業はやっているからウチもやる、お客様の利便性を考えたポイントサービスをつくるのがよいのでは、など根拠なく決めることが許されるレベルの投資ではありません。

さらに、ポイントサービスは少額の付与でも場合によっては大きな購買効果が期待できることがある、同額の値引きよりも売上に効果がある場合がある(例えば中川・星野2017、流通研究をご覧ください)など、人々がいかに合理的な生き物ではないかが分かる格好の研究事例を提供してくれる、行動経済学や消費者行動研究の重要なテーマです。

さて世界のトップビジネススクールでは単にケース、経験を教えているのではなく、実務で要求される話題を一般化できるサイエンスとして研究し、その結果を理論にまとめて教えています。ポイントサービスは経営的にも重要な話題ですから、ビジネススクールに所属する経済学者や経営学者などを中心に様々な企業からデータを入手して分析する、一緒にポイントサービスの変更をしてその評価をするといった研究がこれまでに数多く行われています。但し、様々な最適化のメソッド、分析のやり方についてこの短い文章で説明することは難しいです。そこでここではどのような関心の答えを出すことができるかについて紹介してみましょう。

ポイントサービスや顧客データなど、データ分析にまつわることで何かしらご興味がある方は、こちらからお問い合わせください

ポイントサービスのROIと顧客生涯価値:ポイントの効果はどれだけあるの?

さて、先ほどROIというよく使う言葉を紹介しましたが、ポイントサービスのROIはどのように計算できるのでしょうか?ちなみにROIは以下のように計算するのが通常です。

ROI=投資による利益(=投資による収入増加分ー投資のコスト)/投資のコスト

このように書くと計算は簡単に思えます。例えば新規顧客の獲得についてのポイント販促のROIの場合なら、ポイント販促のコスト(契約してくれる顧客へのポイントや一人当たりの実施コストなどの和)は比較的計算が容易です。

一方、「投資による収入増加分」の計算も簡単に見えますが、本当に簡単でしょうか?新規顧客が獲得されることで得られるであろう売上を計算すればよいのですが、では具体的にどのように計算したらよいでしょうか?

新規顧客は顧客になった最初の年に平均してどのくらい購入・利用するのでしょうか?それだけでも予測は簡単ではありませんが、そもそも最初の年だけ考えればいいのでしょうか?すぐに顧客でなくなる(離脱する)可能性もありますし、逆にとても気に入ってもらえて競合から自社にメインがシフトすることで利用が徐々に増えるかもしれません。

実は海外の経営学や経済学の研究者は、顧客データベースからその顧客が将来的に離脱する可能性も含めた上での、長期の顧客生涯価値を計算する方法を開発しています。

対象となる業態によって多少方法のバリエーションはあるものの、一時点や一時期の顧客からの利益ではなく、長期的なその顧客から得られる顧客生涯価値の観点からROIを計算するのが正しい方法であることは広く理解されており、マーケティングのレベルだけではなく全社の販促費の決定、あるいはM&A時の企業価値の計算などあらゆるマネージメントの階層でこのような手法が利用されています。

新規だけではなく既存顧客の生涯価値ももちろん計算はできますので、既存顧客が他社に流出しないためにどの程度の投資を行うべきかも同様に計算ができます。

ROIの計算を誤って施策を行うとその失敗は非常に大きなものになります。長期に得られる顧客からの利益は一時期のそれより一般にとても大きなものですから、一般に顧客生涯価値で考えたROIは高くなります。一方、同時に複数の新規顧客獲得施策が走っているなら、他のものによる効果を分けないと高すぎる値になってしまいます。

外資の競合が思い切って大きなインセンティブを一部の新規顧客に与えている、あるいは既存顧客が離脱しないために支払っているとしたら、それはより正確な方法でROIの計算を行った上で、それでもペイすると考えているのかもしれません。

ポイントサービスや顧客データなど、データ分析にまつわることで何かしらご興味がある方は、こちらからお問い合わせください

後編はこちらからご覧ください。

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2004年東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了(学術・経済学)。その後名古屋大学大学院、シカゴ大学、ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院、東京大学等を経て2015年より現職。3年連続で慶應義塾大学経済学部のゼミで志願者が最も多いゼミを指導する。第13回日本学術振興会賞、2017年に日本統計学会研究業績賞を受賞。統計学・行動経済学・マーケティング分野の専門家で、国内トップレベルのデータサイエンティストとしても知られる。他にも、日本行動経済学会理事、日本行動計量学会理事、日本マーケティング・サイエンス学会理事等も務める。